恋ふうせん
さっきまで白井さんが飲んでいた茶碗。

そっと人差し指で触れてみた。

ただ、それだけなのに、こんなにも愛おしい。

彼の触れるもの、言葉、動作、全てが輝いて見える。

ああ、重症だわ。私。

「咲ぃ。」

旦那がリビングから呼ぶ声が聞こえた。

ハッとして、白井さんの茶碗を流しの下に置いた。

「うん?何?」

「久しぶりにビールでも一緒に飲まないか?」

げー。

全く一緒に飲む気にはならないんだけど。

でも、こういう時に断ると後々うるさいから少しだけ付き合うとするか。

冷たく冷えた500mlのビール缶とグラスを2個お盆にのせてリビングに出ていった。

久しぶりに旦那についでもらうビール。

少し後ろめたい気持ちは消せないけれど、こうやって2人で飲む時はいつも体の力が抜けてホッとする。

これが長年つれそった夫婦というものなんだろうか。
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