恋ふうせん
「お前は本当に覚えてない?」

旦那にビールをつぎながら、動揺をごまかす。

「そう?覚えてないわよそんな前にあった人のことなんて。」

「あの当時はもっと若くて、ひょろっとしてたけど、あの目は結構やきついてんだよな。」

「目?」

「おう。前髪からちらっと見えた俺らを見る目。若いくせに色んな事情を察知できるっていうか、見透かすっていうか、眼光がするどかったんだよ。きっと、俺らが喧嘩してたのもわかってたんだろうな。俺らの様子をうかがいながら、必死にどうやってこの場を収めるか考えてた風に見えたよ。あん時は悪いことしたよな。」

私は何も言わず、自分で継ぎ足したビールをぐいっと飲んだ。
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