恋ふうせん
私の目の前には、私が初めて見る未知さんが座っていた。

頬に横髪がはりついている。

目もどことなくうつろで焦点が定まらない感じ。

相当にまいってることは一目見て感じ取れた。

未知さんに対して、申し訳ない気持ちもあるけど、今の私には女性独特のいやらしい変な優越感も感じていた。

それは、自分が一番嫌いだった人間の感覚だったはずなのに。

未知さんも変わってしまったけど、私も変わってしまったのかもしれない。

いや、白井さんも旦那も、私をとりまく全ての人が変わっていってるような気もする。

「未知さん、お体大丈夫ですか?」

未知さんはうつろな目を私に向けた。
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