恋ふうせん
「咲さんは、今日、僕の部屋であったこと、後悔してる?」

白井さんの目がうるんでいる。

とても優しい眼差しだった。

私はそっと目をそらして、首を横にふった。

「幸せだったよ。きっと一生忘れない。」

白井さんは、私が航太にしたみたいに、自分の人差し指で私の涙をふいた。

「ありがとう。僕も一生忘れないよ。」

そして、白井さんは玄関から出ていった。

涙にかすんだ玄関の扉をしばらく見つめていた。

終わったんだね。

本当に。

さよならだね。

私は、重たいバッグを肩にかけて、病院へ向かった。

余計なことは考えず、ただ、航太のことだけを考えて。
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