恋ふうせん
玄関を出ると、外は真っ暗でひんやりとした風が頬をなでた。

白井さんとエレベーターを待っている間、このまま時がとまってしまえばいいのに、なんて幼稚なセリフが頭の中を駆けめぐる。

「今日は楽しかったです。ありがとうございました。」

白井さんが少しうつむいて静かに言った。

「そんな、楽しいだなんて、こちらはお酒飲んでぶっ倒れてお恥ずかしい限りです。本当にごめんなさい!」

白井さんはくすっと笑うと、

「『ぶっ倒れられる』前に、色んなお話が聞けて、僕も家内もかなり楽しませて頂いたんですよ。」

「私、何か言ってました?」

「覚えてない?」

「は、はい。全く。」

すると、白井さんは、今まで笑いをこらえていたかのように、急に声を殺して笑いだした。

「旦那さんとのこと、お子様のこと。本当に色々。とても楽しいご家族だなぁって。」

私、何しゃべったんだろう?

「僕にとっては全てがうらやましい話でした。」

寂しそうな笑顔で正面を見つめている。

エレベーターが7階に止まり、扉が開いた。

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