恋ふうせん
「咲さんが、旦那さんと御結婚する前、北海道に旅行されたことないですか?」

「あ、確かに一度結婚する直前の夏に小樽にいったかも。」

「僕、昔小樽のホテルでボーイをやってたことあるんです。」

「ええええ!そうだったの!」

夜中だというのに思わず大きな声を立ててしまい、すぐに両手で自分の口を塞いだ。
それにしても、泊まったホテルのボーイさんとはそんなに親しく話した記憶もないんだけど。

「僕にとっては、咲さんが来られた日が初出勤だったんですよ。だから、今でも朝から晩までのこと、鮮明に覚えてるんです。」

「じゃ、その時、私と何かしゃべったりしたのかしら?」

白井さんは少年のように恥ずかしそうに笑った。

「ええ、咲さんは覚えてらっしゃらないでしょうけど。僕が咲さんをお部屋まで荷物持って案内したんですよ。」

「そうだったの!」

って叫んだものの、全く記憶に残ってない。

とういうのも、うちの旦那とはその日かなり険悪な状態だったんだよね。

それどこじゃなかったもの。

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