恋ふうせん
「その時の咲さんは旦那さんに対してはものすごく冷たいんだけど、逆に僕にはすごく優しかったんですよ。多分、旦那さんへの腹いせだったのかもしれないけど、それが初仕事の僕にとっては忘れられない人になった。」

急に真顔になって見つめてくる白井さんにドキッとする。

「だから、このマンションに越してきて、お子さんを公園で遊ばせる咲さんを見つけた時は本当に驚いたんです。

その上、僕の会社にまで来られるなんて。」

なんだか、ぎこちない空気が流れているので、別の話題を振った。

「でも、小樽のホテルは辞められて今の会社に?
ホテルとは全く関係ないお仕事ですよね?」

白井さんは出していた両手をまたポケットに入れて、うつむいた。

「僕も辞めたくはなかったんですが。今の会社は未知の父の会社なんです。」

それは、また衝撃の事実だった。

未知さんは根っからのお嬢様だとはうすうす感じていたけど、やっぱり。

「じゃ、未知さんに見初められて今の会社にうつられたの?」

「ええ、まぁ。」

遠い目をした白井さんを見ていると、それ以上は聞いてはいけないような気がして、私も口をつぐんだ。

すると、白井さんの方から口を開いた。

「ホテルにいる時、未知が両親と泊まりにきたんです。」

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