恋ふうせん
旦那のスリッパを引きずる足音が近づいてくる。

そろりと旦那の方を見ると、むっつりとした顔で右手に新聞を持って立っていた。

すかさず航太が叫ぶ。

「お父さん、お母さん帰ってきたよぅ。よかったねぇ!」

隆太も叫ぶ。

「お父さん、心配してたもんねぇ。帰ってこなかったらどうしようってぇ。」

そんな子ども達の言葉に、旦那は軽く舌打ちをして、頭をかきながらソファーに座った。

「昨日は本当にごめんね。」

子ども達のそんな姿に背中を押されて、旦那の横顔に言った。

旦那は咳払いを一つして、新聞を広げながら、

「子ども達に心配かけんじゃねえよ。」

と、言葉はぶっきらぼうだが、優しい口調でつぶやくように言った。

子ども達は本当に偉大だ。

子は鎹というけれど、本当に何度子ども達の言葉や行動に支えられたことだろう。

もう一度二人をしっかり抱きしめると、

「今日の朝ご飯ははりきってホットケーキ焼いちゃった!
ソーセージも目玉焼きもあるわよ。しっかり食べようね!」

とできるだけ元気よく言った。

「わぁい!」

子ども達は、仲良く、そしていつもよりお行儀よくテーブルに座った。

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