恋ふうせん
「あ、そう?覚えてないけど。」

「そりゃ、お前はえらく俺のこと怒ってたからなぁ。

それどこじゃなかっただろう。」

旦那は苦笑いを浮かべながら、おみそ汁を一口すすった。

「俺さ、確かにホテルで見たことあるんだよ。
ボーイだったかな?少し長い前髪と、切れ長の目が印象的でさ。
絶対、兄弟か本人かだよ。」

私は動揺をさとられまいと、そそくさとキッチンに戻った。

自分用に空のグラスに氷を入れて、ミネラルウォーターをそそぐ。

冷たい水が喉を静かに流れていく。

喉の痛みが少し和らぐようで気持ちがよかった。

その時、ポケットの携帯がブルブル震えだした。

白井さんからの返信?

また心臓がバクバクしはじめた。

熱があると、一層心臓が激しく脈打つもんなのね。

と、訳のわからないことを心の中でつぶやきながら、携帯をそっと手にとった。

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