恋ふうせん
仕事を終えてエレベーターを待っていると、ふいに後ろで「大杉さん」と私を呼ぶ声がした。

振り返るとそこには白井さんがにっこり立っていた。

「あ、白井さん、その節は色々とお世話になりました」

私は久しぶりに会う白井さんを少しまぶしく感じながら軽く会釈をした。

「どうですか?お仕事は。急に生活が変わって体調など崩されてませんか?」

わぁ、なんて優しい言葉をかけてくれるんだろう。

うちの旦那なんて、

「これだけ忙しくすれば、間食も減って少しはやせれるだろう。」

くらいしか反応してくれなかったのに。

「はい、ありがとうございます。おかげさまで生活にほどよい緊張感ができて、毎日楽しくお仕事させてもらってます。」

正直な気持ちだった。

そして、少し後ろめたさを感じながら、白井さんをまじまじと観察。

スッとした切れ長の目と形のいい高い鼻。

少し色白だけど、頼りがいのありそうなひきしまった口もと。

濃紺のスーツに合わせた薄グレーのYシャツが、年齢よりも落ち着きを見せてよく似合っていた。

こんな素敵な人が同じマンションだったなんて。

私ももう少しキョロキョロしとけばよかったなぁ、と心の中で微笑んだ。

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