恋ふうせん
「今日、僕がお誘いしたのは、こないだの美由紀のお礼と、」

少し間をあけて、

「美由紀の実の母親のことを、きちんとお話しておきたくて。」

と言うと、白井さんはビールをもう一度口にふくんだ。

白井さんがテーブルの上にグラスを置くのを待って、私もビールを一口飲んだ。

「美由紀から、未知が本当の母親ではないことはお聞きですよね？」

「ええ。」

「未知と出会った時には、既に僕には妻がいたんです。
未知は最初そのことを知らずに僕との交際を求めてきていました。
妻とは、学生時代からの長いつきあいで、僕がホテルのボーイに就職が決まる直前に結婚したんです。」

「そうだったんですか。」

「だから、もちろん妻とは別れる気はなかったし、未知や義父母にも丁重にお断りしていたんです。」

白井さんの最初の奥様ってどんな人だったんだろう。急に胸の鼓動が激しくなってきた。

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表紙・目次

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