恋ふうせん
「ごめんなさい。もし言いたくなかったら言わなくて結構ですから…」

私は慌てて自分の無神経な発言を撤回した。

白井さんはそんな私を柔らかい、少し寂しそうな笑顔で見つめた。

「いえ、かまいませんよ。咲さんにだったらどんなことでもお話できます。」

そんな吸い込まれそうな白井さんの視線から思わず目をそらしてしまう。

「妻は『由梨』といいました。静かだけどとても気丈で、強い女性でした。
弱音や愚痴なんて、僕には一度もこぼすことがないような人。
それがかえって由梨自身を苦しめる結果になってしまったんだろうって、今は思います。」

由梨さんか…。名前だけでも凛とした美しい女性だったような気がする。

「由梨とは、僕が学生の頃のバイト先で知り合いました。
よく顔を合わせるようになって、気づいたら好きになっていました。
よくもこんな若造を相手にしてくれたもんだって思いますよ。」

「え?じゃ、由梨さんは白井さんよりも年上だったの?」

「はい、僕より7歳上でした。」

白井さんはそういうと、少し恥ずかしそうに視線をおとして微笑んだ。

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