恋ふうせん
無言で見つめている私に気づいた白井さんは、口元にかすかな笑みを浮かべて少し首をかしげるような仕草をした。

「咲さんは、この選択は間違っていると思いますか?」

私が何か言える立場じゃないことは十分わかってるけど、正直に答えた。

「間違ってるとか云々じゃなくて、なんていうか、もっとゆっくり考える時間が必要だったように思いますけど…。」

白井さんはふうっと静かにため息をついた。

「そうかもしれません。でも、僕は由梨に対して未知の存在以上の裏切りをしていました。だから、そんなに深く考える余地もなかったんです。
結局僕が未知を利用したのかもしれません。」

「?」

「美由紀がお腹にいるとわかる前から、僕は由梨にはもう気持ちがなかった…。」

「そんな…、白井さん?」

目の前にはいつのもの穏やかな瞳を向ける白井さんがいる。

でも、その言葉を聞いた瞬間、私の知らない白井さんに見えた。

人の気持ちを射抜く鋭い視線と理解できないような深い闇を持っている、

そんな私の知らない白井さんに。

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