恋ふうせん
白井さんは私から目をそらさなかった。

「咲さんはそんな僕を軽蔑しますか?」

私も白井さんの目から顔をそむけられなかった。

「軽蔑されることを覚悟で、咲さんには本当の気持ちをお話します。

僕は、その当時からずっと思い焦がれている女性がいたんです。

自分でもこんなに気持ちをひきずるとは思いませんでした。

たった一度だけ会って、一言だけ会話をしただけの女性。

一目惚れとかそういう簡単なものではなくて、僕には生涯たった一つの訪れるべき恋だったんだと思っています。」

私の鼓動がどんどん早くなってくる。

「その女性は、僕にたった一言言ってくれました。
『あなたの瞳に癒されました』って。」

『あなたの瞳に癒されました』

どこかで聞いたことのあるフレーズ。

少しずつ脳裏に忘れていた情景が現れてくる。

< 88 / 221 >

この作品をシェア

pagetop