恋ふうせん
私はその時、結婚する前の旦那とホテルのロビーにいた。

飛行機に乗り遅れてイライラしている私は旦那が持ってくれようとした荷物を無理矢理
はぎとり自分で持ち直す。

でも、結構重くて足元がふらついた。

「だから、持つって!」

旦那は、ふてくされたような顔で反省の色もなく私の右手をつかんだ。

「もぉ、さわらないで!いいのっ。あなたには関係ないんだから!」
私も更にかわいげのない態度で旦那の右手を振り払い、背を向けた。

「あのぅ…」

私の背後で旦那とは違う、かぼそい声が聞えた。

振り返ると、長身の色白で繊細そうなボーイが申し訳なさそうに立っていた。

「お客様のお荷物お持ち致します!」

少し緊張した声で、そのボーイは、私の荷物をさっと手にとった。

あまりに爽やかなボーイにしばし見とれる。

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