恋ふうせん
「僕の家内とはよくお会いになられるんですか?」

白井さんの口から「家内」っていう言葉を聞くと、急に現実に引き戻される。

「あ、はい。たまに子どもを連れて行った公園でお会いします。とても明るくてかわいらしい奥様ですよね。」

「ええ、まぁ。」

白井さんは少し目を伏せて言葉をにごした。

あれ?なんかまずかった?

「うちの家内、あれで少々精神的に弱いもので…。頼りない奴ですけど、これからも仲良くしてやって下さい。」

すぐに気を取り直したかのように笑顔に戻って、

「あ、足止めしてすみません。エレベーター来ましたよ。」

と右手でエレベーターの扉を開けておいてくれた。

「ありがとうございます。じゃ、お先に失礼します。」

少し慌てた私は、エレベーターに飛び乗ってもう一度会釈をした。

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