恋ふうせん
「あ…」

私は右手で口をおさえて、それだけ言うのがやっとだった。

「咲さんが、僕の住むマンションに越してこられたのを拝見した時から自分の気持ちをおさえるのに必死でした。」

白井さん?ひょっとして酔ってるからそんな色めいた話をしてるんじゃないの?

「すみません。咲さんの気持ちを取り乱すようなことがあったら、今の話は忘れて下さい。」

なんて言うけど、忘れられるわけないじゃないの!

私はとにかく冷静にならなければと、ビールではなくミネラルウォーターを一口飲んだ。

私だって、今白井さんに向かっていく自分の気持ちを抑えるのに必死なんだから。

「え、あ…。ちょっとびっくりしちゃった。」

ちょっとどころの騒ぎじゃなかったけど、それだけ言うのが精一杯だった。

心臓は話を聞く前の倍以上の速さで脈打っている。

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