突然パパになりまして
柏木の電話から20分後、ドアを二回叩く音が聞こえてきた。

……本当に来たのか……

分かっちゃいるけど気分は取り立てられてる債務者みたいな気分だ。
開けたと同時に脅されたりして……

「おはようございます」

黒ロングの髪が風に吹かれて少し横になびき、黒縁メガネの奥にある眼は仕事の時と同じように端が斜めにつり上がっていた。
1ついつもと違うのは両手に買い物袋が2つあることだ。

「あ、持ちます」
「ありがとうございます」

柏木の手から離れた瞬間「ふぅ」と一息ついた声が。
俺の腕にズッシリと感じる重み、何が入っているのか分からないがここまで持ってくるのは大変だっただろうに……
台所に荷物を置いて振り返ると、柏木はまだ玄関……正しくは玄関の外側にまだ立っていた。

「……あ、その、ど、どうぞ」
「失礼します」

コッコッとヒール音が二回聞こえた後に柏木が部屋に入ってきた。
女性を自分の部屋に招き入れるのは何年ぶりだろう……
そして全く嬉しくない……寧ろこの凍りつくような緊張感は会社にいる時よりも息苦しい。

「正直信じられませんでしたが……」
「は、はい?」
「本当に……いたのですね」

アーアーと両腕を柏木に向けている赤ん坊を見ているが、柏木はどんな表情で赤ん坊を見ているのかこちらからは確認出来ない。

「赤ちゃんを抱いていてください」

こちらへ振り返り、先程の買い物袋からエプロンを取り出し、スーツの上からそれをかけた。
な、何する気だこの人は。

「すぐに作りますので、まずは朝食を済ませましょう」

会社に居る時はこの人の人格は理解できずにいたが、俺の部屋にきて益々分からなくなった……

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