突然パパになりまして
「は、はい?」

突然の事で普段より1オクターブ高い声で返事してしまった。
それもそうだ。携帯の待ち受けは俺のお気に入りのゲームキャラクターがいる。
40にもなってそんなの待ち受けにするなと言われそうだが、携帯なんてそんなもんだ。
人のプライバシーの塊、何があったって……いやいや、話を進めようぜ?

「突然すみません、少し……お願いがありまして……」
「は、はぁ……な、なんでしょう」

この女性の最初の印象は幸薄い……と言った感じだった。
俺が言えたもんでもないが、よく言えば儚い。悪く言えば根暗な感じ。
店内の雰囲気とは相反する出で立ちではあったものの、話しかけられて無視するわけにもいかないだろ?

「少し……子供を預かって欲しいんです」
「……え?あの……はい?」

いやいや、知り合いならまだしも見ず知らずの人に子供を預かって、なんて普通お願いするか?
親になった事はないが、常識的に考えて有り得ないだろ?

「トイレに行くだけの……ほんの5分でいいんです」

断ろうとした矢先に被せられた一言。
女性の顔を見ると何処と無く青白く、少し汗をかいてるようだった。
……体調が悪いのか?
そう考えれば緊急を要するし、一刻も早く行きたいだろう。
何より青白い表情とは裏腹に鬼気迫るほどの眼光が断るという選択肢を俺の中から消した。

「俺で、いいんですか?」

何もやましい事は無いのだけど、たった5分とはいえ子供の……しかもまだ赤ちゃんといえるレベルの子の命を預かるのと一緒だ。
俺の他に誰か……と見渡したが、休憩所には4人も人がいたにも関わらず、その近く……つまり俺がいる自動販売機と椅子しかない所では俺しかいなかった。

「お願いします!」

半ば強引に赤ちゃんを突きつけられ、慌てて胸元に抱え込む。
寝てはいるようだ。

「じゃ、じゃあ5分……」

と見上げた瞬間、女性は姿を消した。
カートに乗せた大量の食材と右手に抱えていたバッグまで残して……
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