突然パパになりまして
「本日のご来店、誠にありがとうございました。当店は夜七時をもちまして……」

 両腕に抱えられた赤ん坊、起きて泣いてしまわないように細心の注意を払いながら僅かに膝を動かしたり赤ちゃんの頭の位置を変えたりしたが、特に起きるような素振りはなかった。

……ほっ。

……って、いやいや、待て待て!
蛍の光が店内に流れ出し、無機質な女性のアナウンスが今日のお店の営業時間終了のお知らせが流れてくる。
あの、俺、飯どころかこの場から動く事すら出来ないんですけど!?
てか5分ってはずなのにもう1時間経とうとしてるんですけど!?

これ……どうすんの……
動こうにも俺に預けた人が行った先は多分女子トイレ
確認できるはずがない……というか捕まる。

ここから離れたらすれ違いになるかもしれないし、そうなると
「きゃー!誘拐よー!」
……最悪、なるかもしれない……

でもこのまま動かないで良い訳がない。
かと言ってこの子を放置するわけにもいかない。

「し、仕方ないんだからな?俺は悪くないんだからな」

俺の軽いパニック思考など関係なく、腕の中で眠る赤ん坊は小さな吐息と共に眠っている。
将来大物になりそう……などと思いながら、ゆっくりと席を立った。
< 6 / 22 >

この作品をシェア

pagetop