素直にバイバイが言えるまで
龍吾を引き止めまいとして、強がって涙を流さなかったことが後悔なんだとわかっても、時間は二度と戻らない。


とうとう溢れ出した涙が頬を伝って顎の下で止まると、教官が私に言った。


「泣きたいときは、我慢しない方がいいぞ」


何も言えないでいると、どんどん喉の奥が熱くなって痛くなった。


ついには涙がポロポロと溢れたけれど、それまで胸につっかえていたものがはがれ落ちてゆくようで、体の力が抜けそうになった。


「ちょっと汚いけど、ハンカチ」


すると教官がジャケットのポケットから、ハンカチをもそもそと取り出して、私に差し出してくれたのだった。


「ありがとうございます」


クシャクシャに丸まっていたハンカチを見た瞬間、思わず私は泣き笑いしていた。


頼りなく見えた教官が、ほんの少しだけカッコよく見えた瞬間でもあった。
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