名探偵の導き
ダイヤモンド
高校一年の夏休み、母と二人で福井へ行った。海の見える露天風呂でゆったりと温泉に浸かる。
長湯が苦手な母はもう上がって部屋に戻っているだろう。外科医である父は法務大臣の手術を終えたばかりで、旅行を取り止めた。
母と二人きりなんて初めてだし、なんだか照れ臭いような気さえする。
部屋に戻ったらどんな話をしようか。そんな事を考えながら風呂から上がった。
だけどもう話す事はできなかった。
僕が部屋に戻ると母は洗面所のドアノブにかけた浴衣の帯で首を吊っていたのだ。
警察は自殺ではないかと言った。
そうは思えない。海の幸が好きで、夕食を心待ちにしていた母が温泉から上がった直後に自殺なんてありえない。
僕は旅館の中を調べ回り、料理長の岡村大吾へ辿り着いた。岡村は、母を襲おうとして…。
自供した岡村を警察へ突き出した。
「あの人が美人過ぎたから俺の理性が崩れたんだ。そうだっ、美人過ぎたから悪いんだ!」
そう言った岡村の最後の声が今でも僕の耳を叩くように渦巻いている。
その後、母を失った悲しみに暮れながらも探偵になりたいと思い、その夢を叶えた。
今では、マスコミに取り上げられる程だ。
『名探偵、赤沼光一、またもや殺人事件を解決へと導く』
そんな活字がどこにいても目に入る。
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