名探偵の導き
──…今日は、甲斐聖花と長野のスキー場へやってきた。聖花とは大学のゼミで知り合い、付き合って五年になる。栗色の髪に凛々しい大きな瞳。桜色のナイーブそうな唇。僕の一目惚れだった。
「光一くん、私ちょっと疲れちゃった。先にパライソに行ってるね」
パライソは幼なじみの冬木亮輔が経営しているペンションの名前。
冬木が東京に来た時、聖花を紹介した事があった。
今夜はそこに泊まる。
「ああ、わかった。冬木が迎えに来てくれるから」
僕は聖花を冬木に託し、一人でスキーを堪能した後、寒さから逃れるように車に乗り込んだ。
鞄から出したリングケースをポケットにしまう。実は今夜、聖花にプロポーズをする予定。冬木もそれを知っている。
早く聖花の喜ぶ顔が見たい。僕の冷静な鼓動が加速していく。
気がかりなのは、バロンが聖花になついていない事。今日は仕方なく友人に預けてきたが、聖花を見る度に吠えるのだ。普段は大人しいのに何故だろう。聖花がつけている甘い香水の匂いが嫌なのか、それとも聖花に嫉妬でもしているのだろうか。
考えながらも車のスピードを抑え、運転に集中する。雪道には慣れていない。