名探偵の導き
壁にあった電気のスイッチを入れた。
眩しさに一瞬目を閉じかけたが、そこにあった凄惨な現場に眼球と目蓋が痙攣し、閉じたくても閉じられない。
胸にナイフが突き刺さった冬木が横たわり、血だまりが広がっていたのだ。
それはまるで僕の足を取る赤い底無し沼。
「私、捕まりたくないわ」
聖花の声がして振り返った。
繭玉のようなコートに滲む返り血。
「聖花! まさか君が……」
「名探偵さんに仕事を依頼したいの。私をどこかへ逃げさせて」
そう言った聖花の横顔にスポットライトが当たっているように見えた。
それは僕にではなく、常に犯人に当たっていたのだ。
「おまえには潜在能力がある」
母が亡くなった時、父が言った。
僕が殺人事件を呼び寄せ、導いてしまうのではないだろうか。だとしたら、僕のミステイクは名探偵になってしまった事。
「なあ、聖花。冬木を殺した理由を教えてくれないか」
「私にもわからないの」
母さん、僕、今すぐ母さんの所へ行ってもいいですか。僕の安っぽい脳はそう思いながら、赤い沼へと引き摺り込まれていった。ポケットのダイヤモンドと共に。
【*名探偵の導き*END】