メトロの中は、近過ぎです!
「アイツっ!」

大野さんが怒りながら私に近づくけど、
……怖い。
威圧感に反射的に体が固まった。

「…っ…」

言葉にならない音を出した大野さんは立ち止まり、スーツの上着を脱ぐと私にかけた。

「立てるか?」

目の前に右手を出して待ってくれている。

その右手をとりたかったけど、手が思うように動かない。

そんな私の横に座り、大丈夫だと言いながら背中をさすってくれると、なぜだか涙が止まらなくなる。

「移動するぞ」

大野さんの声も震えていて、
ようやく味方が来てくれたんだと理解すると少し落ち着いてきた。

大野さんに支えられ立ち上がって移動するけど、パンプスが片方脱げていて歩きにくくて、ほとんどを大野さんに抱えられるようにして歩いた。

倉庫を出るとき、一瞬ためらった私に気付いた大野さんは「大丈夫だから」と小声で言って、隠すように隣の駐車場に向かった。

駐車場の奥まで素早く運んで、そこに止めてあった黒のRV車の助手席を開ける。

「とりあえず乗って」

促されるままに乗ろうとするけど、手や足に力が入らずに、高い位置にある助手席に乗れない。

迷っていると「乗せるぞ」と言って、膝の後ろに手を入れて抱き上げ、乗せてくれた。

それだけなのに触られたことで全身に緊張が走って、体が震えだした。

後部座席をゴソゴソやってから運転席に戻ってきた大野さんが手にしていたのはバスタオル。

「これしかなくて…」
「あ、り…」

言葉を出そうとすると、涙の方が大量に出てくる。
もっとしっかりしなきゃいけないのに自分の体が思うように動かない。

「いいから。もうしゃべるな」

大野さんは何も言わなくなった。
それをいいことに、渡されたバスタオルに顔をうずめ泣き続けた。

その波が収まると、カチャリとドアが開く音がする。

ビックリして運転席の方を見ると、大野さんがドアを開けて降りようとしていた。
思わずそのワイシャツを掴んだ。

「い、いかな、いで」

指先が震える。

一人になるのは怖い。
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