メトロの中は、近過ぎです!
大野さんのスーツの上着を着て、借りたバスタオルをブラウスを隠すように握りしめて、助手席に座っていた。
大野さんは何も聞かないし、何も言わない。

おまえが悪い、と怒られるかと思ったけど、無言で前を向いたまま運転している。

「大野さん」
「……」
「ありがとうございました」

ちらりと私の方を向いただけで、またすぐに前を向いてハンドルを握っている。

「あの、何度も助けてもらってすみませんでした」
「……」
「忠告されてたのに、軽く考えて…いたら、こんな…」

もう泣きたくないのに、涙が出てきてしまう。

大野さんがハンドルを大きく右に切る。反動でガラスに頭をぶつけるくらいの急ハンドル。

ビルに囲まれたコインパーキング。
壁に向けて駐車された車は、他の人の目から私を隠してくれているようだった。

大野さんはハンドルを抱えるようにしてうつむいている。

「悪かった」

何に対して謝っているんだろう。
大野さんは全く関係ないのに。

バッと私の方を向いた大野さんは、奥歯をかみしめ眉間には深いシワが寄っていた。
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