メトロの中は、近過ぎです!
「俺がなんとかする。だからおまえはもう泣くな」

その言葉を聞いただけでまた涙が出てきて、バスタオルから顔が上げられない。
本当にもう泣きたくないのに…

「もう泣くな!」

うんうんと首を動かす。
分かったことを分かってもらおうと必死で首を振る。

だけど、もう一生止まらないんじゃないかと思うくらい、涙が次から次へとあふれ出てくる。

そんな私を大野さんがバスタオルごと抱きしめた。
一瞬ビクッとなる。

「大丈夫。これ以上はしない。泣き止むまでこうしててやる。イヤなら早く泣き止め」

かなり横柄な態度だと思う。
こんな時にその言い方ってどうなの?

そう言おうと顔を上げると、大野さんが微笑んでくれてた。

ありがとう

でもその目がまた険しくなる。

大野さんの右手が私の頬に伸びるから恐くなって身を引くと

「殴られたのか?」

心配そうな大野さん。

そんな痕でも残っているのだろうか。
大野さんが触ったところが痛い。

「聞いてもいいか?答えたくなかったら言わなくていい」

やめて、何も聞かないで

「最後までやられたのか?」

そんな風に思ってたんだ。
ブンブンと子供のように首を振り続ける。
それだけはないとこの人に知っていてほしい。

「そうか…わかったから、もうやめろ」

大野さんの手が私の頭に乗る。
それでも私の震えは収まらない。

「でも…」

川端主任との圧倒的な力の差を思い出して全身が震えだした。
何度も何度も唇を拭いたけど、あの感触は消えない。

触れられた肩も首も胸も、全部違うものと交換できればいいのに…

「悪かった」

大野さんの声が震えている。

「思い出させてすまん」
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