メトロの中は、近過ぎです!
「いつから付き合ってんの?」
「…最近です」
「ふーん。誰?」
「誰って…言っても大野さんは知らない人だし」
「王子?」

バッと顔を上げて大野さんを見た。
確かに出会った日にそんなことを言った気がする。

大野さんも私を見てる。

「その顔は当たりか?」

低い声だった。一瞬不機嫌なのかと思うくらい。

身体が強張る。



「行くなよ」



大野さんはまっすぐ前を見ている。

ギリと、胸が締め付けられる。

どうしてそういう事言うんですか?
そんなこと言われたら、私は……

「って言ったりして…」

は?
冗談?

その冗談は心臓に悪いです。

「やめとけよ。遊ばれて捨てられるぞ」

大野さん。何を考えているんですか?
無表情な顔からは何も読み取れない。

「じゃあ、コインゲームで決めます」

車はいつの間にか私の家のすぐ下に止められていた。

「おまえ、そんなんで決めんなよ」
「確率は二分の一ですよね?」
「…」

100円玉を取り出す。

「大野さんが当てたら、明日は家でゆっくりしてます。目を閉じてください」

大野さんはしばらく私を見ていたが、しぶしぶ目を閉じた。

右手に100円玉を握る。

「いいですよ」

大野さんがじっと私を見ている。

「本当にこんなんで決めるのかよ…」
「……」

しばらくして
「こっち」
そう言って大野さんは、


左手を叩いた。

「残念。ハズレましたね」

両手を開いて見せるけど、大野さんは目をそらしている。

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