メトロの中は、近過ぎです!
第一会議室の掃除は3課のみんなも手伝ってくれたおかけで、次の日には綺麗になった。

私と戸田君は入りきれずに廊下に出されたダンボールを倉庫に持っていくことにした。

あの事件以来、倉庫に入るのは初めてだ。
台車にダンボールを乗せるときには既に手が震えてしまって、うまく乗せられなかった。

「真帆さん。大丈夫ですか?なんか顔色悪いですよ」
「うん。大丈夫。これ運んだら休憩しよう」
「いいですね。3課に行ってみんなと喋りたいですね」
「そうだね……」

エレベーターを降りると、戸田君はダンボールを軽々と抱えて倉庫に入って行ったけど、私は倉庫の扉のところで足がすくんで立ち止まってしまった。

動け!
大丈夫。もう大丈夫だから……

焦るほど身体が震えだす。

考えないようにしようとする程、あの日の光景が蘇ってきて……

体が震え、吐き気がする。


倉庫の前から動けないでいたら、ふいに横に人の気配がした。

「無理するな」

私から台車を奪い難なく倉庫に入っていくのは、

大野さん……

私の腕には大野さんの鞄が渡されていた。
その鞄を握りしめ、倉庫の中に意識が飛ぶ。

お礼を言わなきゃ。あと4課に誘ってもらって……

突然、横から大野さんの鞄が引っ張り取られた。
慌てて取り返そうとして横を見ると、ニッコリ笑ったハラマキさんがいた。

「佐々木ちゃん。久しぶり」

鼻にかかった甘い声に、甘い匂いの香水。
フワフワの長い髪をゆるくまとめた、見るからに女って感じの麻紀さん。

麻紀さんは私の腕の中から奪った大野さんの鞄を大事そうに抱えている。

「麻紀さん…お久しぶりです。どうされたんですか?」

胸の奥の方が痛んだ。

「私も4課に配属になったの。よろしくね。一緒に大野君を支えていきましょうね」

そう言った麻紀さんは私の方なんて見ていなかった。

倉庫から聞こえてくる楽しそうな笑い声が、私の中の柔らかいところをザラザラの硬いものに変えていく。
< 129 / 309 >

この作品をシェア

pagetop