メトロの中は、近過ぎです!
部屋の呼び出しのブザーを押す。
カチャ、と開いたドアからは麻紀さんが顔を出した。

「遅いよ。もー」

慌てて携帯で時間を確認するけれど、4:50。約束の時間より10分は早いはず。

「どうぞ」

そう言って微笑んだ麻紀さんは、薄いピンクのエプロンに、普段よりかなり薄めのメイク。
まるでこの家の奥様のように私たちを招き入れた。

広い玄関を抜けて室内に入ると、モデルルームのように落ち着いたブラウンで統一されたインテリア。その中に大野さんがいた。

「何やってたんだよ」

既にものすごく不機嫌そうなこの家の主は、所在無げに立っている。

「すみません」

条件反射で謝る戸田君。

「ごめんね。私が4時って言ったのが5時って聞こえちゃったのかな?確認すればよかったね。ごめん」

麻紀さんがキッチンから私たちに声をかけた。

そういうことか…
わざと嘘の時間を教えたんだ。
二人きりでいたかったってことですか…

その証拠に本社からの他の二人もまだ来ていない。

「佐々木ちゃん、こっちちょっと手伝ってー」

オシャレなアイランド式のキッチンの向こうから呼ばれる。
テーブルの上にはすでに高そうなオードブルが並んでいて、

「これを、この器に一つずつ入れていってほしいの」

指示されたお鍋の中には、上品な海老しんじょが数個入っていた。

「すごいですね」

思わず言ってしまうと、

「そんなことないよー。でもお料理好きだからずっとキッチンに立ってても苦にならないの」

明らかにソファーに座っている大野さんに向けて答えている。

それからすぐに本社からの二人、中川さんと森田さんも到着して、森田さんがしきりに麻紀さんの料理を褒めている。

麻紀さんは冷蔵庫や食器棚を勝手に開けてどんどん必要なものを取り出していく。迷いがない。

今日が初めてという訳ではないんだ。

それは誰が見ても明らかだった…
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