メトロの中は、近過ぎです!
「真帆」
「うん」
「俺はおまえを最後まで守ることはできない」

鼻が痛い。
目の前の景色がぼやける。
それでも下唇を噛んで堪えた。

「あの人と、幸せになれよ…」

堪え切れなかった涙が頬をつたう。
大野さんの口から、そんなこと言われたくなかった。

「泣くなよ…」
「泣いてないよ」
「泣くな。抱きしめたくなる」
「じゃ、泣く」

大野さんが私を見て優しく笑った。

「勝手に泣け」
「泣かないから」
「ああ」
「あんたなんかのためには泣いてやんない」
「ちょっとは泣け」

私も彼を見て微笑んだ。


昨日、一瞬でも彼に触れたと思っていたのは私の勘違い。
誰を苦しめても、迷惑かけても……なんて思ってても、実際にあの女の人が苦しむんだと思ったら、そんなことは言えなかった。

罪の重さに改めて気が付いた。

私が向かおうとしていたのは、行ってはいけない道だったんだ。


しばらくしてから車はゆっくりと浦安を目指して走り始めた。


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