メトロの中は、近過ぎです!
「許すよ」
シンさんは冷たく微笑んだままそう言った。

狂気すら感じる笑顔は、私の背中に冷たいものを落とす。
知らない間に私は椅子から立ち上がっていた。

「どこ行くの?マホ。座って」

声が出なくて、首を横に振って答える。

「でも、許すのは今回だけだよ」

シンさんが立ち上がり私との距離を縮めた。
後ろに下がるけど、椅子が邪魔でもたついてしまう。

「ごめんなさい。でも……」
「別れるのは許さない」

そう言った瞬間、シンさんは私の腕を掴んで、ものすごく冷たい目で私を見下ろしていた。

怖い。

喉が痛い
声が出ない

あんなに穏やかだったシンさんが、私を軽蔑している。
腕を掴む腕が力強くて、痛みに顔が歪むほど。

そんな私を見たシンさんは冷たく笑った。

「そんな話するときに、出されたシチュー素直に食べてどうすんの?」

ハッとなってシンさんを見る。
まるで別人のように笑っているシンさん。
もう狂気しか感じられない。

「何入ってるかわかんないでしょ?」

吐き気がして、嗚咽が漏れる。
それでも必死で腕をほどこうとした。

逃げ出さなきゃ、今すぐ、ここから…

「冗談だよ。何も入ってないよ」

大笑いするシンさん。

もうなりふり構わず腕を外そうとするけど、ふりほどけないすごい力に、恐怖が足の先から昇りあがってくる。





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