メトロの中は、近過ぎです!
「おいで、マホ…」

掴まれた腕に力が入る。
部屋の中に引きづり込まれている。

「か…帰ります!」

必死で抵抗するけど、どんどん部屋の中に移動していて
急にあごの下に手が入って上を向かされた。

息ができない。

目の前には怒りを含んだ切れ長の目が、私を睨んでいた。

「あいつの方が良かったか?」

言われた言葉の意味を考える暇もなく、腕を思いっきり引っ張られて床に倒された。
腰と肘に鋭い痛みが走る。

「なに、他の男に股開いて来てんだよ」

一瞬意味が分からなかった。
自分の耳が信じられなかった。

あのシンさんがそんなこと言うなんて……

「なんとか言えよ。ビッチ」

髪を掴まれて、上を向かされた。

「う……」

視界が潤んでくる。

「せっかく大事にしてるって言っといたのに」
「シンさ……」
「簡単に裏切って」

頬に涙が流れた。

「ち、違います…」

情けないくらい声が震えた。

「アイツとヤってないのか…」

ひたすら頷いた。
シンさんの口元が緩んだから、信じてくれたのかと思った途端、

「そんなウソ。俺が信じると思ってんの?」

スっと血が引いて、信じてもらえるなんて甘い考えだったと、やっと気づいた。

シンさんは私の髪から手を離してソファーに座り直した。
ガタっと雑にグラスを取ると、残っていたバーボンを全て飲み切って

「マホ。仕事辞めろ」

ドンっと音を立ててグラスをテーブルに置いた。
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