メトロの中は、近過ぎです!
「仕事辞めて、ここに住みな。そうすればアイツには会わないだろ?」

シンさんが空になったグラスにたっぷりとバーボンを注ぐ。
私は床に倒れたまま動くことができずに、その音を聞いた。

腕の震えが止まらない。

「お、大野さんには、婚約者がいます。私とはなんでもな……」
「聞いてないだろ!そんなこと!」

大きな声に身体が委縮する。
もう涙が止まらなかった。

「こんなの…シンさんらしくない…」
「……」
「シンさんらしくないです…」
「は?俺らしいって何?」

低い声だった。
低くて冷たくて、誰も側に寄せ付けない…そんな言い方。

「……」
「おまえに俺の何が分かるの?」
「……」
「分かろうともせずに、表面だけ見て判断してんなよ!」

シンさんが無理やり口づけをしてきた。
強引に割って入ってきた舌先からバーボンが口の中に流れてくる。
強い洋酒の匂いにむせ返りながらそれを飲み込むと、喉が更に熱を持つ。
口に入りきらなかった分は頬を伝って首から更にその下へと落ちていった。

「女ってみんなそうだな。俺らしいって何?浮気されても笑ってろって?イメージだけで決めつけんな!」

ようやく私は間違っていたことに気付いた。
どれだけ自分が甘い考えだったのかも……

シンさんほどのイケメンに本気で相手されるわけない そう決めつけていたのは私
私と別れてもシンさんは傷つかない そんな風に勝手に思っていたのも私

私はシンさんをちゃんと見ていなかったんだ。

ただ社内恋愛しないように、大野さんに惹かれた自分を認めないために、私はシンさんを利用した
そんなことにも気付けずに、シンさんを傷つけた


罪には、罰が下されるーーーーー
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