メトロの中は、近過ぎです!
バタンと後ろで事務所の扉が閉まる音がする。

目を閉じてシンさんに引かれるまま進んでいたら、突然歩みが止まった。
目を開けると、シンさんが冷たい瞳で私を見下ろしている。
一瞬交わる視線にゾクリと肌が粟立った。

トンと軽く押されて壁に背をついた。
その瞬間シンさんの両手が、私の首に触れる。

「マホ。どうしたらおまえは分かってくれるんだ…」

シンさんの手に力が入る。
息ができない。

もうこれで終わりなのかもしれない。
全てが終わるのかもしれない。

歯を食いしばると涙が出た。

大野さんの笑った顔が浮かんできた。

もう一度あの笑顔が見たい……

本当は一瞬だったのかもしれない。
腕を叩くとすぐに解放され、壁を支えにズルズルと座り込んだ。

咳込みながらも一生懸命新鮮な空気を吸い込むと、お腹に力が戻ってくるようだった。

「マホ…」

隣にしゃがもうとするシンさん。
それを拒むように私はシンさんを睨んだ。
シンさんはすっと上体を起こして私を見下ろしている。

「会社は、辞めません」

視線は逸らさなかった。

「仕事は続けます。子供は……出来てたら、一人で育てます!」

涙が止まらない。

「私は…私が、隣にいたいのは…大野さんです」
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