メトロの中は、近過ぎです!
顔を上げて目が合うとそのまま抱き締められた。
20年前から知っていた温もり。

この人を支えたいと思ったのは、大人になってからじゃない。
もっと前、もしかすると生まれてくる前からそう思っていたのかもしれないとさえ思えてくる。

遠廻りをしたけれど、一番大切なものがやっと分かった。

あわただしくも長かった入院生活の最終日。
実家や、恵比寿の大野さんの部屋に行くか、と聞かれたけど、やっぱり浦安の自分のマンションに帰りたい。

全ての手続きを終えてくれた大野さんは、私のボストンバッグを持つと先を歩いて病院から出ていった。

たった数日間でも、住み慣れた部屋。
最後にぐるっと部屋を見渡して一礼した。
たった数日間なのに、いろいろ考えた日々だった。

エレベーターに乗り込んだ時、二人きりだったから思い切って、大野さんの空いてる方の手を握ってみた。

大野さんは驚いてるようだったけど手は離されなかったから、嫌がってはいないと思いたい。

今更手を繋ぐなんて恥ずかしいけど、ここから出ていくことの不安というか、武者震いというか、とにかく大野さんと手を繋いでいたら落ち着くから、顔は見ないで握ってた。

1階に到着して扉が開くと、さすがに繋いだ手を離そうとしたら、意外にも大野さんが強く握ってきた。

大野さんを見ると、まるで全てわかっているよって顔でこっちを見てたから、恥ずかしかったけどそのまま駐車場へと歩いて行った。
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