メトロの中は、近過ぎです!
まったりした途端、大事なことを思い出した。

「ちゃんと訂正した?」
「何が?」
「子供。いるって言ったんでしょ?」
「あー、それ。残念だったって言っといた」
「残念?」
「あの事故でダメになったと思ったみたい。真帆さん、可哀想って」
「え?」

それは根本的には否定してないような……

「今度、うちで食事でもしようって。姉貴の獣医も呼ぶって」
「なんか…もう、それって…」
「そう。婚約者」

表情一つ変えずに、淡々と言われてしまった。

でも、私にはやっぱりその状況は現実的ではなくて…

「そう」

とだけ答えた。

「なんだよ他人事だな」
「なんか、まだ、よくわかんない」
「だよな。俺も」

そう言うと大野さんはギュッと手を握ってきた。

うん、やっぱりこの手は安心する。

自然と大野さんの肩に頭を寄せた。

「真帆。そうされると仕事行きたくなくなる」
「え?今から仕事行くの?」
「あぁ。終わんねーからな。来週には鶴見に引っ越しだ。早く戻りたいだろ?」

3課と4課のみんなの顔と、人形町のオフィスが脳裏に浮かぶ。

「戻りたい!」

やりたい仕事がたくさんある。
鶴見の営業所がどんなになったかも見たい。

大野さんは優しく微笑むと、私の頭に軽く手を置いた。

「今日は早く戻ってくるから、快気祝いやろーぜ」
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