メトロの中は、近過ぎです!
「あの人誰だ?」

微妙な空気を崩してくれた課代は、前を向いたまま。
黙ってれば絶対モテるだろうなと思う横顔に、少し感謝した。
このままの態度だと、仕事がやりづらいと思ったから。ただそれだけ……

「誰ですか?」

「さっき部屋に一緒にいた男。知り合いか?」

「あぁ。倒れた時に助けてくれた方です」

末岡さんの彫刻のような顔と、優雅な微笑みを思い出した。つい顔が緩んでしまう。

「あの人は…何て言うか、通りすがりの白馬に乗った王子様のような」

キャーって言いながら、両手で顔を覆うと、

「は?何言ってんだよ。いい歳して」

そのツッコミも心地好くてつい楽しくなる。

「これは運命の出会いかもしれません」

「おまえ、あんな奴が好きなのか。やめとけ。遊ばれるだけだぞ」

「ふふ。課代、ヤキモチですか?」

「はあ?」

冗談なのに、課代はわざわざ私を睨みつける。

「あの顔であの雰囲気ってどう考えても遊び人だろう。
女には不自由してませんけど、なにか?って顔してんだろ。
おまえ、ほんと、そういうの鈍いんだな」

やっぱり課代でもそう思いますよね。
確かにあれはモテる顔。モデルの彼女がいますって顔だ。

「は~。惚れた弱みですかね」

「バカか。もう惚れたのか」

「はい。惚れっぽい性格なんです」

優しくて整った顔の王子には、たぶんみんな惚れてしまうと思います。

「初恋の人はいいのか」

課代が小さな声で聞くから、もう少しでスルーしそうになった。

「初恋ってもう20年も前の話ですよ。その子、小学生の時に引っ越したんです。今はどうしてるのか全く知りません」

また沈黙してしまったけど、さっきよりかは全然良い。
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