メトロの中は、近過ぎです!
「そろそろですね。次の角を曲がって、白いビルです」

コインパーキングに車を止めると 10:50

「ギリギリセーフですね。課代」

そう言って私たちは前田ホームの前田社長に会いに行った。

小奇麗に片付けられた室内には、シャガールの絵
前田社長は気難しそうな細身のおじさまだった。

「課長代理、ふーん」

大野さんの名刺を見ながら私たちを交互に見ている。
私は得意の営業スマイルで内緒話をするように社長に近づいた。

「こう見えても、あの大野建設の御曹司なんですよ。武者修行でうちに来てるんです」

大野課代が隣で睨んでる視線を感じるけど、笑顔を崩さず夢中で話しかけた。

最初の掴みこそ悪かったけど、それからは話を聞いてくれて

「ありがとうございました。おかげでサクサク決まりました」

車を出そうとしている大野課代に頭を下げた。

新たに契約をもらえた。
更に発注もしてくれて、かなりの成果。

大野課代の爽やか御曹司風のトークと、いつの間に覚えたの?って不思議になるくらいの商品知識も手伝ってくれたから…なのもある。

「いや、あれは佐々木さんの実力ですよ」

なぜいきなり敬語?
私にも爽やか御曹司を続けるつもりですか?
もう正体知ってますけど……

「すみませんが、もう一か所寄りたいところがあるんですが」

「どこですか?」

「吉野設計さんです。前田さんを紹介していただいたので一言お礼を言いたくて」

やっぱりこういう事は早い方がいい。

「近いんですか?」

課代は早く帰りたそうだけど……

「ここから30分かかりません」
「でもこの時間お邪魔では?」

車の時計は12時10分を表示していた。
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