メトロの中は、近過ぎです!
優雅に薄い唇が弧を描いて、
「おはよう」
と聞こえた気がした。

慌ててイヤホンを外して、
「おはようございます」
とは言ったけど、

「……」

なんでいるんですか?

単純な言葉だけど、その言葉がなかなか出てこない。

「あの…次のに乗られるんですか?」

いや、当り前か。
じゃなきゃ並ばないだろうし。
何をどう聞いたらいいのか、そもそも話しかけていいのか。

なのに末岡さんは軽くうなずいた。

「あ、あの、浦安に住んでるんですか?」

首を横に振っただけの末岡さん。
これ以上は答えたくないってことかな?

駅のアナウンスと電車の到着を知らせる音が鳴り響き、56分発の急行に乗り込む。
当たり前のように私の後ろから乗ってきて、まるで私をかばうように立っている末岡さん。

電車が揺れて人が多くなると、さりげなく腰を支えてるかのような位置にある末岡さんの手

やばいです。
鼻血でそうです。

そんな綺麗な顔で見つめられたら、勘違いしてしまいます。

「どうしてこの電車に?」

次の駅でドアが開いたときに、やっとそう聞けた。

「偶然」

そう言って笑った末岡さんは、大人の色気たっぷりで、またしても倒れそうになった。
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