メトロの中は、近過ぎです!
次の日も、56分発の3両目に並んでいると後ろに気配を感じた。

今度は期待して振り向くと、
「おはよう」
やっぱり末岡さんだった。

「おはようございます」

朝から末岡さんに会うと、今日一日何か良い事が起こりそうな気がする。

「お住まいはどちらなんですか?」

「南行徳」

隣の駅だ。

「あ、乗り換えで?」

「そう」

何気ないその返事にも、色気がたっぷりで……こんな人がいるんだなって思い知らされる。

改めて住む世界が違うって言葉を身近に感じてしまうし、この前の事件がなかったらこんな風に言葉を交わすことすらなかったと思うと不思議な縁だ。

人はこれを運命と呼ぶのかもしれない。

見上げると、私の視線に気がついた末岡さんが微笑んでくれて……

勘違いするなよ、私。

南行徳は急行が止まらないから、浦安で乗り換える人は多い。
末岡さんは乗り換えで、たまたま居合わせただけ。

自分を厳しく諌めながら電車に乗り込んだ。

でも…

都心部に近づくにつれて混雑してくる車内、
必然的に末岡さんと体が密着して…

「こっち」

当り前のように腰に回された腕をものすごく意識してしまう。

やけに頬が暑い。車内が暑いのか、私だけが暑いのか。

先に乗り換えの駅に着き、頭を下げて降りようとすると、

「またね」

微かに聞こえた低い声。

電車を降りて振り替えると、優雅に微笑む末岡さんと目が合った。

また……一緒に通勤するってことですか?
同じ電車に乗ってもいいですか?
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