メトロの中は、近過ぎです!
「佐々木さーん。
1番に吉野設計さんからです。」

ラグビー部だったでしょう、って必ず初対面の人に言われるくらい身体の大きい戸田君が私を呼び止めた。

「チーフ、すみません。先に行っててください。
辰五郎さんから電話みたいで…」

「あら、たっちゃんから?
私が先に出るね。
戸田君、何番?」

吉野設計さんは今は私の担当だけど、
その前はずっと伊藤チーフが担当していた業者さん。

辰五郎さんはもう60歳は越えているだろうけど、まだまだ現役という、若干セクハラ入った大事なクライアントさんだ。

「たっちゃ~ん、お久です」

伊藤チーフの甘えた声が聞こえる。

セクシーさが売りのチーフは機嫌が良いと語尾にハートマークをつけた話し方になる。

最初は慣れなかったこの営業スタイルも、チーフの仕事ぶりを見ていたら納得できるようになってきた。

「じゃ、佐々木に代わりますね。あんまりイジメないでね。」

「それだけかい、伊藤ちゃん~」

辰五郎さんの大きい声が、まだ受話器を受け取る前から聞こえてくる。

「佐々木です!伊藤は既に席を外しました!」
「まほちゃん。そう妬くな。」

ガハハハハ~と大きい声で笑う辰五郎さん。
お決まりの挨拶だ。
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