メトロの中は、近過ぎです!
19時より少し前に行くと、すでに末岡さんは高島屋の前にいた。

長身でサングラスをかけて、短いダークブラウンのレザージャケットを着こなしている彼は、そこに立っているだけでも絵になる。

道行く女の子が噂しているのが聞こえる。
「あの人モデルだよね…」
顔が小さいからより一層そう見えるのだろう。

うん、分かるよ。
どこかにカメラがあって、このモデルを撮影してるって言っても納得する。

それに比べて、私なんて機能性重視のパンツスーツに髪はまっすぐ下ろしていて、見るからに仕事上がりのOLさん

「はぁ」

今更ながら不釣り合いに気づいた。

あのメンズモデルの隣には並べないよね……


なかなか近寄ることができずに、挙動不審に行ったり戻ったりしている私に末岡さんが気づいたのは、すぐだった。

信号を渡ってまっすぐこっちに来てくれている。

電車の中で見るときよりも、外の世界のきらめきが反射して、今はさらに王子様度が増している。

「こんばんは」

その一言で私の頬は熱くなる。

「こ、んばんは……」

「行こうか」

優しく微笑み返してくれた彼は腰に手を添えさりげなくエスコートする。

スマート過ぎるその動作は彼の経験の豊富さを物語っている。


連れていかれたのは、半地下になっているオシャレなイタリアンレストラン。
赤レンガに囲まれたそこは、入る前から大人の場所って感じ。
ドアを開けて、私を先に中に入れる仕草も優雅だ。

すぐに店員さんから「お待ちしておりました」と声をかけられ、奥の観葉植物に囲まれた広い一枚板のテーブルへと案内された。

「勝手に予約したけど良かったかな?」

「こんな素敵なところ初めてです」

この場所に来れたことだけでもワクワクする。
なんだか自分が映画の中のヒロインのように思えるお店。
< 71 / 309 >

この作品をシェア

pagetop