メトロの中は、近過ぎです!
「北さんからのネタなんだが、埼玉のショッピングモールの改装で、うちのライバルメーカーが欠品を出したそうだ」

課長が神妙に話し出した横で目を閉じてうなづく北御門さん。

「ウッド調の床材が間に合わないからと、大理石調の塩ビに変更してくれと言い出したらしい。施工業者は羽生建設。デザイナーはカンカンに怒ってるようだ」

北御門さんのうなづきが大きくなる。

「面積は5000㎡」
「5000?」
「えっ?」

ざわつき出したオフィス内

「だがな、これを受けられたらデカイぞ」
「だけど、羽生さんは1課の担当になるんじゃ…」

心配そうな戸田君が口をはさんだ。

「グレーゾーンだな」

課長が言い切る。

「羽生建設は大きなところだが全国展開はまだだ。うちのクライアントでもおかしくない。羽生建設がクライアントになったら売り上げが一気に倍だ」
「倍は言い過ぎですよ」

南主任に注意される課長。

「納期は?」

私も聞いてみた。

「明日だ」
「明日?!」
「いや、全部じゃない。せめて1000は納品したい」
「1000ですか?500でも厳しいんじゃないんですか?」

大野さんも心配そうだ。

「大野さん。できる、できないじゃないんですよ。やるかやらないかだ」

北御門さんの大きい声が響くと、大野さんじゃなくてもビクリとした。

「明るめのウッド調という要望で、商品指定されてる訳じゃないらしい。サンプル帳開いて片っ端から発注かけていけばなんとかなるかもしれん…」

南主任の説明に北御門さんが大げさに首を傾けた。

「あ…いや、なんとかしよう。最悪は全国の支社にも状況を話して在庫を吐き出させれば、1週間もあれば揃えられるはずだ」
「責任は俺がとる」

課長が嬉しそうに言う。

「やると決めたら、死んでもやり抜くぞ。布団で寝られると思うなよ。いいな?」
「はい!」

全員の声が重なった。

「よし!この仕事取るぞ!」
「はい!」

なんか、みんなの目が輝いている。
一気に活気づいたオフィス。
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