メトロの中は、近過ぎです!
「大野。ちょっと待って」

伊藤チーフが自分のデスクの引き出しで何かを探している。

「これ持って行って」

チーフが持ってきたものは写真。
それを見た大野さんが固まっている。

「なんだ?」

南主任が覗き込むと大笑いし始めた。

「あはは…。伊藤、これ大野にやるのか?セクハラじゃないのか?」

その言葉に全員が大野さんの手にあるものを見に駆け寄ると、
大野さんの手には伊藤チーフのセクシーショットの写真が握られてる。

去年の忘年会のときに酔った勢いで撮ったチーフのミニスカサンタの写真で、確か罰ゲームでチーフが負けたのに、ノリノリで着たやつだ。

私と沙也香ちゃんは爆笑した。

「それ、浜松の工場長に渡して」

チーフがニヤっと笑う。

「工場長は私のファンなの」
「そうなんですか?」

知らなかった。

「俺にじゃないんですか?」

苦笑いの大野さん。

「欲しかったら今度あげるわよ」

嬉しそうに笑うチーフ。

「俺にもくれよ」

主任が手を出すと、

「主任は一万円で」
「俺からは金取るのか!」

主任がそう言ってむくれるから全員で笑った。

「大野。いいか伊藤さんの写真は最後に出せよ。もうこれ以上ウッド調はないと言われてから、もったいぶって出せ。そこからが本当の勝負だと思え」

和やかな雰囲気から一転、南主任の顔つきが変わる。
私も備品置き場からピンク色の封筒を取ってきた。

「大野さん。これに入れてください」

沙也香ちゃんはそれを見て、自分のデスクからピンクのハートのキラキラしたシールを取り出してきた。

「はい、大野さん」

チーフのセクシーショットの写真はあっという間に怪しい書類に変わった。

「わかりました。俺、がんばってきます」

大野さんが鼻息荒くそう言うと、

「浜松のウッド調根こそぎ持ってこい!」

南主任は大野さんの肩を叩いて激励する。
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