メトロの中は、近過ぎです!
「もう食べた?」
「ああ」

大野さんが笑っている。
なんだか雰囲気が違う。
前は、いかにも良い人そうな笑い方だったのに、今は自然と顔が緩むって感じ。

「運転、気をつけてね」
「おう」

こっちの大野さんの方が断然話しやすい。

「途中、眠たくなったら無理しないこと」
「はっ。誰に言ってんだよ」

でも、そんな風に自信たっぷりの姿、
直視できなくなるからやめてほしい。

「あの…これが浜松工場の入口で、こっちが工場の事務所。奥が工場長の部屋」

マーカーで線を入れていく作業に必死で集中してるのに

「ここは一方通行だから、面倒でも遠回りしなきゃいけなくて…」
「なあ」
「うん?」

大野さんに説明を遮られて、思わず大野さんを見てしまった。
意外と近くにいる大野さんに鼓動が早くなる。

「3課っていつもこんな感じなのか?」

あぁ、仕事の質問か…

「いつも?いつもこんなに忙しいのかってこと?」
「いや…まとまってるよな」
「あー、うん」
「一人一人はすごく個性的で単独プレーなのにな…」

何が言いたいんだろう。

「嫌い?」
「いや。すげー好き」

私が言われたわけじゃないのに頬がものすごく熱くなる。
隠すように資料に目を落とすと、

「これ、ありがとう」

大野さんが工場の見取り図を持ち上げた。

「うん。気を付けて…」
「おう」

長い脚で戻って行く大野さんの背中が、一段と大きく見えたような気がした。

どうか無事で帰ってきますように…
< 90 / 309 >

この作品をシェア

pagetop