メトロの中は、近過ぎです!
オフィスに戻ると既に大野さんは出発していて、デスクはきれいに整頓されていた。

無事に戻ってくる。
今は大野さんのあの自信に溢れた顔を信じよう。

深呼吸を一つして、作業に戻った。

大野さんが出発してかなりの時間が経った頃。

「戸田。そろそろ本社行くか?」

南主任が再び動きだした。

「内緒でいただくんですね?」
「泥棒みたいに言うな」

それでも二人は楽しそうにスーツから作業着に着替えている。

「でも今からならシャッター閉まってるんじゃ…」

時刻は21:25
ほとんどの社員はもう既に自宅に着いてる頃。

「ああ。青木常務に話は通した」

その言葉に課長をはじめ、戻ってきていた田中さんまでもが一斉に南主任に注目した。
そんな全員の視線に気付いた主任は余裕で笑ってた。

南主任みたいにできる人が3課に飛ばされたのは、青木常務との噂が原因だった。

青木常務は女性では一番トップの役付きで、ずっと独身。
社長の愛人という噂まであった。
その常務のお気に入りが南主任だった。

「おい、南。大丈夫なのか?」

やっぱり課長は心配している。

「もちろん、大丈夫ですよ。課長は明日本社から呼び出されたときのことを考えていてください」
「それはいいんだが…常務室に行くのか?」
「そこには戸田が行きます」
「俺ですか?」
「俺がこの時間に常務室から出てきたらまずいだろう」

南主任は楽しそうに言う。

「やっぱり噂は本当だったんですか?」

沙也香ちゃんがついうっかり言ってしまったという感じで口を押さえている。

「堀。そんなくだらない噂信じるなよ」

主任の言葉に私もホッとした。

「課長。あとは頼みます」

そう言うと南主任と戸田君は先を争うように出ていった。
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