メトロの中は、近過ぎです!
オフィスに到着すると、誰もいないみたいに電気も点かず静まりかえっていた。
けど、耳を澄ますと、どこかからかスースーと規則正しい寝息が聞こえる。

そっと近づいてみると、ソファーに横になっている人がいる。
大野さんだ。

右手で半分隠された顔。
無防備な姿。

泊ったんだ。

これだけ近づいても気が付かないんだから、疲れてるんだ。
ということは浜松では成功したのかもしれない。

無事で良かった。

普段は宗教なんて信じていないけど、今日ばかりは神様に感謝した。

他に誰かいないかとあたりを伺うと、戸田君が自分のデスクの後ろの床に横になっている。
思わずくすっと笑ってしまった。

電気もつけないまま、自分のデスクに向かっていると、

「おはようご…ざ…います」

最後の方は消え入りそうな声で入ってきたのは沙也香ちゃん。

「みなさん、お疲れですね」
「そうだね。他の人たちはどこにいるんだろうね」

オフィスの中には二人以外見当たらない。

そんな時に電話が鳴り響いて、こっちの心臓まで止まりそうになった。

「はい。オリエンタル建材です」
「佐々木か。おはよう」

受話器の向こうからは課長の弾んだ声が聞こえる。

「課長、おはようございます。今、どちらですか?」

沙也香ちゃんも受話器に耳を当てている。

「埼玉の例のショッピングモールの現場にいる。北さんも一緒だ。南はいるか?」

「いえ。大野さんと戸田君が寝てるだけで南主任はいらっしゃいません」

そう答えると、背後から人の気配がした。
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