侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「では余は帰る故、皆ゆるりと楽しむが良い」

陛下が帰られた後、私は数名の方に立て続けにダンスを申し込まれました。

陛下と踊ったのですからダンスは解禁のはず。

祝福しに来てくださったのにお断りするのも失礼に思えて、皆様と踊りました。

今はアンディーとスローな曲を踊っています。

アンディーもとても上手ですし優しくリードしてくれるのですが、身長差のせいか、やはりレイモンド様とが一番踊り易い気がします。

「どうしたの?」

「何でもないのよ」

菫の瞳が少し翳ったように見え、咄嗟に言葉を付け足します。

「向こうで父とお姑さんが親しそうに話しているから、不思議な組み合わせだと思ったの」

微笑みながら答えた時、ちょうど曲が終わりかけ、アンディーはちょっぴり切ない眼差しと声で、
「セルル、もう一曲良いだろう?」と。

「いぃや駄目だ!! さぁジュリア嬢……」

いつの間に傍に来ていたのか、可愛らしい令嬢と踊っていたレイモンド様は、その方の手をアンディーに預け、代わりに私の手を強引に取ったのです。


「エセル、今夜はもう他の誰とも踊ってはいけないよ」

レイモンド様はスローなステップを踏み、私の瞳を見つめながらおっしゃいます。

「私のダンスが見苦しいからですか?」

「違うよ……」
ポソリと零れた言葉を食い気味に、
「ご自分はマリー様とお楽しみだったのに」

無意識に、拗ねるような言い方になっていました。

「マリーとは今は本当に何でもないんだ、信じてくれ。体に毒だし……ざわざわざわざわざわざわざわ(愛しているから、他の誰にも触れさせたくないんだ)」

辺りが俄かに騒がしくなった為、レイモンド様の言葉は、途中から全く聞こえませんでした。

あ!!
廊下の方から悲鳴が聞こえます。

本当にハプニングだらけの夜でした。

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