侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
宴のあと
披露宴はお開きになり、殆どのお客様のお見送りが終わりました。

社交辞令かも知れませんが、色々な意味で素敵な披露宴だったとおっしゃって下さる方が多く、父を褒めて下さる方も数名いらっしゃいました。



最後まで残っていたアンディーは、足がふらつくほど酔っています。
他の皆様は玄関ホールでお見送りしましたが、心配なのでアンディーには、車寄せまで付き添いました。

憂いの滲む声で別れの挨拶をしながら、幼馴染は言ったのです。

「セルル……、いつでも僕の所へ戻っておいで」

翳りを帯びた菫の瞳は、言葉よりも多くを私に問い掛けてきて、胸の奥に鈍い痛みが広がりました。

「アンディー……」

「戻っておいで? エセルは君のものだったことなんて一度も無いぞ」

「ずっとずっと僕のものだ! 貴方にはちょっと貸してるだけだ……、いい気になるな」

酔った口調で駄々っ子のように言いながら、私をぎゅっと抱き締めるアンディーを抱き締め返し、フレッドにするように背中を優しくトントン叩いたり、さすったりしました。

「いつまでそうしてるつもりだ……」

呆れた声で言い放つレイモンド様。
アンディーが酔っている事を差し引いても、かなり苛立っているようです。

幼馴染は切ない表情をしながら私を放してくれましたが、最後にそっと頬に口付けてきました。

挨拶の範囲内ですが、レイモンド様が更に不機嫌になったのをひしひしと感じます。
この人、妻には貞淑さを求めるんですものね……。


何はともあれルイーズ様以外のお客様をお見送りし、ほっと一安心。

別室にいるルイーズ様は今夜は泊まる予定で、今はバーバラ様が付き添って下さっています。
今日は色々な事がありましたが、深刻な事にはならず本当に良かった……。

今夜はもう何も起こらない。
この時私はそう思っていました。
< 126 / 153 >

この作品をシェア

pagetop